症状

腹痛

腹痛は、消化器の病気に由来することが多いですが、それ以外の要因もあります。病状の緊急性を判断することが重要です。

急性腹症は激しい腹痛を呈する状態で、緊急手術の適応を考慮する必要があります。

最近は、腹部超音波検査やCT,MRIなどの画像診断技術が進歩したため、病状を正確に把握することが可能になりました。強い腹痛は、自己判断で我慢せず、すぐに医療機関を受診しましょう。

腹痛の種類

1. 体性痛

持続的で局在するはっきりとした痛みです。キリキリした鋭い痛みで、ときに拍動性。この場合、腹膜炎の可能性があり、緊急手術を考慮する必要があります。腹壁、腹膜、腸間膜、横隔膜には知覚神経が密に存在するため、局在性のある痛みとして知覚されます。体動により、痛みが悪化することが多く、歩くとひびくなどの症状もでます。ただし、高齢者や精神疾患がある場合は、痛みを感じにくいことがあり、時間ととみに病状が進行してしまうため、注意が必要です。

2. 内臓痛

内臓痛は、お腹の正中に自覚する部位感の乏しい痛みです。疝痛のように差し込むような強い痛みもあれば、鈍痛のこともあります。不快感や膨満感として自覚することもあります。悪心、嘔吐、発汗、頻脈などの症状を伴うこともあります。胃腸や胆道の急な収縮や虚血、炎症などにより生じる痛みです。一般に、胃十二指腸や胆道の痛みは上腹部、小腸や結腸は臍のまわり、直腸や骨盤内の臓器(子宮、卵巣、前立腺など)は下腹部に自覚します。体動によって軽快することもあります。

3. 関連痛

関連痛は、病巣と離れた場所に感じる痛みです。放散痛ともよばれています。例えば、胆石の疝痛発作のときに右肩甲骨や右上腕に痛みが放散することがあります。痛みの場所は、受信時にすべて正確に伝えましょう。

4. その他

神経因性疼痛は、神経(末梢神経や中枢神経)の直接的な障害により発生する痛みですが、腹痛を呈することがあります。痛みは、灼熱痛や電撃痛として感じられ、腹部の触診や食事により増強することはありません。帯状疱疹による痛みやがんによる神経障害などがあります。

以下のような症状の方には、消化器内科の受診をおすすめいたします。

  • 急に激しい腹痛が起こった
  • 息苦しさを感じる腹痛
  • 24時間以上、腹痛が続いている
  • 徐々に痛みが増してきている
  • 腸がけいれんするような激しい腹痛
  • お腹を押すと痛みが強くなる
  • 空腹時や食後など決まったタイミングで痛みを起こす
  • 下痢を伴う腹痛
  • 発熱を伴う腹痛
  • 吐き気や嘔吐を伴う腹痛
  • 血便や吐血を伴う腹痛
  • 冷汗・めまい・頻脈など貧血症状を伴う腹痛


痛みの部位と病気

みぞおちの痛み (心窩部痛、胃痛)

逆流性食道炎、急性胃炎、慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、感染性胃腸炎、虫垂炎、胆石症、胆嚢炎、胆のうがん、胆管がん、急性膵炎、慢性膵炎、膵がん、胃がん、機能性ディスペプシア、胃アニサキス症、心筋梗塞など

右上腹部痛(右季肋部痛)

胆石症、胆のう炎、胆管炎、胆のうがん、胆管がん、十二指腸潰瘍、大腸憩室炎、腎盂腎炎、肝炎、肝周囲炎、肋骨痛、肋間神経痛など

右下腹部痛

虫垂炎、大腸憩室炎、急性腸炎、大腸がん、クローン病などの炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、腸閉塞、子宮付属器炎、子宮内膜症、子宮筋腫、尿路結石など

左下腹部痛

憩室炎、虚血性腸炎、潰瘍性大腸炎、大腸がん、急性腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患、腸閉塞、子宮付属器炎、子宮内膜症、子宮筋腫、尿路結石など

臍部の痛み

急性胃炎、急性腸炎、感染性胃腸炎、虫垂炎、大腸がん、クローン病などの炎症性腸疾患、腸閉塞、急性膵炎、慢性膵炎、膵がん、胃がん、腹部大動脈瘤、尿膜管膿瘍など

下腹部痛

急性腸炎、潰瘍性大腸炎、クローン病などの炎症性腸疾患、大腸がん、便秘、過敏性腸症候群、膀胱炎、尿路結石、骨盤臓器炎、子宮内膜症、子宮付属器炎、前立腺炎など

腹部全体の痛み

過敏性腸症候群、感染性腸炎、腸管癒着症、クローン病などの炎症性腸疾患、腸閉塞、胃・十二指腸潰瘍穿孔、大腸穿孔、腸間膜動脈血栓症、子宮外妊娠破裂

左上腹部痛(左季肋部痛)

急性すい炎、慢性すい炎、膵臓がん、胃炎や胃潰瘍など、尿管結石、大腸炎など

その他のお腹の症状

吐き気

吐き気は、心窩部や前胸部のムカムカした不快感です。随伴して、しばしば生唾、冷汗、顔面蒼白、血圧低下、徐脈などがみられます。薬物や毒物は急性嘔吐の原因となります。著明な体重減少は、悪性疾患や腸閉塞が考えられます。発熱は炎症性の病気を示唆します。頭痛や視野異常は脳の病気によるものが疑われます。めまいや耳鳴りは内耳の障害を示します。食後1時間以内の嘔吐は、幽門(胃の出口)の狭窄の可能性、それ以後の悪心嘔吐は小腸以下の閉塞の可能性があります。吐物に血液が混入していれば、潰瘍や悪性腫瘍が考えられ、胆汁の混入は十二指腸以遠の障害が示唆されます。また、糞便臭の吐物は大腸の腸閉塞を疑います。腸閉塞の場合は、嘔吐後腹痛が軽減しますが、膵炎や胆嚢炎の場合は嘔吐しても腹痛の程度は変わりません。


吐き気は、以下のような病気の可能性があり、注意が必要です。

逆流性食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍、機能性ディスペプシア、胃炎、腸炎、便秘症、腸閉塞、腹膜炎、虫垂炎、膵炎、急性肝炎、胆石症、胆嚢炎、メニエル病、自律神経失調症、大腸がん、片頭痛、脳腫瘍、もやもや病、くも膜下出血、脳出血、緑内障、心因性、妊娠、尿路結石、心筋梗塞など

食欲不振

食欲不振は、消化器の病気だけではなく、他の臓器に関連した症状のこともあります。
抑うつ状態や不安神経症などの心理的要因による発症も多いので、総合的な診断が必要です。
消化器の病気は、悪性腫瘍や炎症、腸管の狭窄、機能不全、運動低下などを鑑別する必要があります。

脳腫瘍や脳炎、髄膜炎などの中枢神経障害、下垂体機能低下や甲状腺機能低下、副腎機能低下などの内分泌疾患、心不全や腎不全、貧血などの血液疾患、抗がん剤や消炎鎮痛剤などの薬剤障害なども食欲不振の原因になります。さらに、うつ病や統合失調症などの精神疾患、神経性食思不振などの摂食障害も鑑別が必要です。最近は、胃や周辺臓器に異常がないにもかかわらず上腹部痛や食後のもたれ感などを訴える機能性ディスペプシアが食欲低下の原因になっていることも多くあります。

胃もたれ

逆流性食道炎、食道アカラシア、胃炎、胃潰瘍、機能性ディスペプシア、胃がん、ピロリ菌など

膨満感

胃炎、胃潰瘍、機能性ディスペプシア、腸閉塞、腹水貯留、呑気症、便通異常、大腸がん、便秘、過敏性腸症候群、逆流性食道炎、腹部の腫瘍、上腸間膜症候群など

下痢

乳糖不耐症、感染性腸炎、慢性膵炎、過敏性腸症候群、潰瘍性大腸炎、クローン病、大腸がん、薬剤性腸炎、甲状腺機能亢進症、アミロイドーシスなど

ー 急性の下痢

急性の下痢で発熱、腹痛、血性下痢、周囲に同様の症状を呈する人がいるなどは、腸管感染症や食中毒が疑われます。ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウィルスなどのウィルス性腸炎が多く、流行状況が診断の参考になります。血性下痢は、ウィルス性腸炎ではまれで、O157などによる腸管出血性大腸菌などの可能性があります。抗生物質投与後の下痢では、偽膜性腸炎や出血性腸炎を考える必要があります。虚血性大腸炎では、血性下痢のことが多く、発症が突然で腹痛を伴い、高齢や便秘の人におこる傾向があります。AIDS、癌患者、免疫抑制剤投与中や臓器移植後などでは、サイトメガロウイルス、単純ヘルペス、カンジダなどによる腸炎も起こります。手術後や胃切除後では、MRSA腸炎に注意が必要です。抗がん剤による好中球減少性腸炎、骨髄移植後のGVHD腸炎でも急性の下痢をきたすことがあります。

ー 慢性の下痢

発熱や体重減少などの全身症状を欠く慢性の下痢は、過敏性腸症候群を第一に考えます。血性下痢が慢性的に続く場合は、潰瘍性大腸炎を疑い、若年者で体重減少を伴う下痢が続くときはクローン病を考える必要があります。免疫不全状態や潰瘍性大腸炎患者では、サイトメガロウィルスやクロストリジウム腸炎の合併も少なくありません。中高年で腹痛、体重減少などを伴う場合は、大腸癌を念頭に置く必要があります。肝不全、低栄養状態、食べ物アレルギー、乳頭不耐症、甲状腺機能亢進症、AIDSなどでも、慢性の下痢がみられます。また、消炎鎮痛剤や強い酸分泌抑制薬による薬剤起因性のmicroscopic colitisも多くみられます。

慢性の下痢の診断には、大腸内視鏡検査が必要になります。

便秘

一般に、便秘は、週に2回以下または3日以上排便がない状態で、便の硬さと増大を伴います。
ただし、排便習慣は個人差が大きいため、便秘として問題になるのは、排便困難、腹部膨満などの症状を伴う場合となります。
最も多いタイプの便秘は、機能性便秘であり、排便時にいきみ、硬い便、残便感、肛門部のつかえ、指での補助(摘便や骨盤底の圧迫)などがみられます。
機能性便秘はさらに弛緩性便秘、痙攣性便秘、直腸性便秘に分かれます。最近では、結腸通過時間遅延型、結腸通過時間正常型、排出障害型に分類されています。
弛緩性便秘は、大腸の蠕動が低下した状態で、大腸で水分が吸収される結果、便が固くなります。
痙攣性便秘は、左側の大腸の緊張が強すぎて、便がブロックされる状態で、排便に際して痛みを伴うことも多く、最初に硬い便がでて、後半は軟便になりがちです。いったん排便してもすっきりせず、残便感や少量のゆるいい便が続くことがあります。
直腸性便秘は、直腸内に便がたまって、うまく出せない状態です。便意をがまんする習慣の人におこりやすい便秘です。ときに、直腸瘤や直腸脱を合併します。
大腸癌、炎症、S状結腸軸ねん、腸壁の神経障害など、器質的な原因の便秘も鑑別する必要があります。
パーキンソン病、糖尿病、甲状腺機能低下、妊娠、脊髄疾患なの全身疾患に伴う便秘もあります。
また、降圧剤、鎮痛剤、酸分泌抑制薬、向精神薬などの薬剤性便秘もしばしばみられます。
便秘を正確に診断し治療するためには、大腸内視鏡検査が必要になります。

詳しくはこちら>>>


便秘をきたす以下のような病気にも注意が必要です。

大腸がん、クローン病、虚血性腸炎、膠原病、便秘型過敏性腸症候群、薬剤性便秘症、腸閉塞、痔など。

胸の症状

胸の痛み  

胃食道逆流症、逆流性食道炎、胃潰瘍、食道がん、食道破裂、心臓病、胸壁の筋肉や骨の痛み、肺がん、胸膜炎、気胸、肺塞栓など

胸やけ

胸やけは、胃酸や胆汁、膵液などの胃内容物が食道内に逆流する結果、食道粘膜が刺激されることによって生じる「胃食道逆流症(GERD)」の典型的な症状です。ときに、胸痛や胸部不快感、胃もたれ感などの症状も同時に現れます。

胸やけは、下部食道にびらんや潰瘍を認める逆流性食道炎によるものと、明らかな粘膜障害を認めない非びらん性胃食道逆流症(NERD)によるものがあり、最近、逆流症状を訴える人の5割はNERDであると報告されています。

逆流性食道炎は、食道がんのリスクであるバレット食道の原因となりますが、近年増加傾向にあります。


胸やけや、以下のような病気の可能性があり、注意が必要です。

胃食道逆流症、逆流性食道炎、食道裂孔ヘルニア、胃潰瘍、食道がん、胃がんなど

嚥下障害

嚥下困難は、食べ物を飲み込みにくい、飲み込むときにむせる、食道がつかえる感じがするなどの症状です。
咽頭違和感もしばしばみられますが、精神的要因や胃液の食道への逆流が原因として示唆されます。

ー 機能性嚥下障害

機能性嚥下障害は、嚥下運動の異常により起こります。口腔咽頭の嚥下障害は、脳血管障害、筋ジストロフィーなどが原因となります。食道の嚥下障害は、食道アカラシア、びまん性食道痙攣、強皮症などが原因となります。

ー 器質性嚥下障害

咽頭や食道が実際に狭くなって起こる嚥下障害です。口腔・咽頭や食道の癌、腫瘍、炎症、奇形などが原因となります。甲状腺腫瘍やリンパ節の腫脹などによる外からの圧迫や食道入口にできる憩室(Zenker憩室)、鉄欠乏性貧血に伴う食道Webが原因となることもあります。

つかえ感

食道がん、胃食道逆流症、逆流性食道炎、カンジタ食道炎、食道アカラシア、好酸球性食道炎、咽喉頭酸逆流症、咽喉頭異常感症など

げっぷ

げっぷとは、胃内にたまったガスが食道を通って口腔内に上昇し、排出されるものです。

日常生活で普通に認めるものですが、それが頻回になると問題となります。

多くは無意識化の空気嚥下症や炭酸水の摂取によるものですが、下部食道括約筋の圧の低下をきたす病気とも関連しているため、以下のような病気の可能性があり、注意が必要です。

なお、空気嚥下症は、急いで食事をとったり、ため息をつくなど、無意識に多量の空気を嚥下して起こると考えれらています。


肥満症、呑気症、食道裂孔ヘルニア、逆流性食道炎、機能性ディスペプシア、胃・十二指腸潰瘍、食道がん、胃潰瘍、胃がんなど

呑酸

胃食道逆流症、逆流性食道炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍など

しゃっくり(吃逆)

しゃっくりは、横隔膜や肋間筋など、呼吸器筋の不随意な収縮により生じます。

しゃっくりは、健常者でもみられますが、持続性、難治性の場合は、原因となる病気が隠れている可能性があり、注意が必要です。

中枢神経や消化器、呼吸器、循環器の病気、精神疾患や腎疾患、代謝疾患、感染性の病気、薬剤性などの可能性があり、鑑別が必要です。

各種消化器がんの症状

食道がん

嚥下障害、胸部痛、嗄声(声がれ)、体重減少などがあります。比較的初期の段階では、嚥下時に起こる胸がしみる感じや、胸やけ感などの症状が現れることがあります。一般的には進行するまでは自覚症状に乏しいといわれています。

胃がん

胃がんに特有の症状はなく、がんの進行に伴って出血、食欲低下、体重減少、ときには腹水による腹部膨満を呈します。したがって、早期胃がんの段階では胃がんを疑うことは困難であり、部位によっては進行しても症状が出にくいことが特徴的です。

大腸がん

初期には無症状のことが多く、進行すると症状が出現します。症状は腫瘍の占居部位によって異なります。直腸や左側結腸のがんは、血便、便通異常(便秘、下痢、細い便柱、テネスムス)、腸閉塞症状(排便・排ガスの停止、腹痛、嘔吐、腹部膨満)、などが特徴です。さらに進行して直腸周囲の多臓器に浸潤すると血尿や頻尿、性器出血、仙骨部疼痛なども出現します。一方、右側結腸では狭窄症状は出現しにくく、不定の腹部愁訴、軽度の腹痛が出現することがあります。

膵がん

膵液・胆汁のうっ滞が出現すると上腹部の痛みや不快感、重苦感など愁訴の原因となります。ま体重減少、頑固な腰背部痛の出現もみられることがあります。

胆のうがん

特異な症状がなく、胆石あるいは急性胆のう炎の症状が発見のきっかけになることが多いです。進行すると、黄疸、体重減少が出現します。

胆管がん

黄疸・全身の痒みが初発症状として最も多く、それに先だち褐色尿と灰白便がみられます。がんの部位によってはこれらの症状が出ない場合もあります。進行すると食欲不振、体重減少、腹痛などがみられます。